人形と花と魔術師

人形と花と魔術師(6)

 港町の外れにある、酒場。
 そこに、長いマントを羽織った男が、カウンターに座る。
「注文は?」
「酒を。……あと、情報を」
 男の要求に、店主は小さな溜息をつく。
「情報っていっても。ここは、単なる小汚い酒場だ」
「花の話があると、聞きました。なんでも、珍しい花だとか」
 男が言うと、店主はようやく「ああ」と納得したように頷いてから、酒を男の前に置く。
「どこかのお偉いさんが、虹色の花を咲かせているとかいうやつかい? あくまでも、噂でしかないぞ」
「それで構いません」
「明日、だったか。週に一度しか出ない船でいく離島に、妙な学者が住み着いているらしい。それも、村から離れた山奥に、ひっそりと住んでいるらしい」
「そこに、花が?」
「と、言う噂だ。実際に行って、花を手にしているのを見たわけじゃない」
「なるほど」
 男は頷いた後、酒の金を置いて酒場を後にする。店主は「やれやれ」と小さく呟き、気付く。
 酒には、一切口をつけた後が無かった。

 エイシュは港を見つめる。
「明日、明日ですね。ようやく、花を手に入れられるかもしれません」
 ティルトの顔が浮かぶ。
 花を見て、なんと言うだろうか。
 見つけたのか、と驚くだろう。そして、苦笑しながら「参った」というかもしれない。
 エイシュは誇らしげに笑う。
 自然の理を覆したか、と笑うだろう。笑って、あの暖かな手で、頭を撫でてくれるかもしれない。
「ティルト」
 小さく呟き、エイシュはその場に腰掛ける。
 足元で、ざざん、ざざん、と波が打つ。ティルトに聞いてはいたが、やはり実際目にすると、不思議な現象だ。
「そうだ、次はティルトと一緒に見るのも良いかもしれませんね」

――ぎい、ぎい。

 胸の歯車が、軋む。
「帰ったら、ついでに歯車を変えてもらわないといけませんね」
 エイシュは苦笑する。金属は確か、潮風に弱いはずだ。
「怒られそうですね」

 ――潮風? 何でそんなものに当たったんだ?

 ティルトの呆れた顔が浮かぶ。
「だって、枯れぬ花を見つけたかったから」
 エイシュは言い訳をする子どものように言う。
『枯れるから美しいんだよ、花は』
「自然の理を覆さないと」
『覆らないんだよ』
「覆ります。ほら、僕は、もうすぐ、枯れぬ花を、手に」
『枯れぬ花?』
「ほら、教えてくれたでしょう? 僕は、あの、話が、一番」
『そうか』
 ティルトが笑う。優しく、笑う。
 エイシュも、笑う。つられて、笑う。

 二人、笑う。

――ばしゃん。

 翌日。
 酒場の店主は、昨晩訪れたマントの男を捜す。
 酒を一口も飲んでいなかったため、酒代を返してやろうと思ったのだ。
 離島行きの船に乗ることは分かっていたから、見送りついでに。
 だが、男はどこにもいなかった。
「行くのをやめたのかもしれないな」
 店主は肩を竦め、店に戻る。
 港からは、出航を告げる汽笛が鳴り響いていた。

<永遠を胸に・了>

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これにて「人形と花と魔術師」完了です。
長々と、だらだらと書いてすいません。
読みづらいかもしれません。
あと、すかっとしない終わりかもしれません。
これも「枯れぬ花」「有限の魔術師」から出た一つとして捉えて下さると、嬉しいです。
別にこれが公式とかそういうわけではなく、自分がこんな感じかなぁ、と書いただけですので。
お付き合いくださり、ありがとうございました!

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人形と花と魔術師(5)

 ティルトは、自らが動けないことを知った。
 否、無理をすれば動く。しかし、身体が鉛のように重いのだ。
「エイシュ」
 静かに、呼ぶ。エイシュは「はい」と答えて近づいてくる。
「どうしましたか、ティルト」
「私は、もうじき死ぬだろう」
 一瞬、エイシュの動きが止まる。
「死ぬ、とは、永遠に眠る、と言うことでしょうか」
 慎重に、エイシュは尋ねる。今までに経験し、理解してきた言葉を連ねるように。
 ティルトは頷き、顔だけをエイシュに向ける。
「一人、残してしまうな」
「一人、とは」
「お前のことだ、エイシュ。私が死んだら、好きに行きなさい。お前が思うがままに」
「意味が分かりません。私は、ティルトと共にあるように、ティルトによって作られたはずです」
「私と言う存在が居なくなるのだから、この場所に縛られる必要はない」
「いいえ、ティルト。ティルトは、居ます。此処に、居ます」
「今は、居るよ。だけど、もうじき、居なくなる」
「いいえ、いいえ。居ます。ティルトは、此処に居ます」
「仕方ないんだ、エイシュ。ほら、私は動けない。起き上がるのも一苦労だ。こうして喋るのも辛い。私は老いた。直に死ぬのは、自然の理であり、常識なのだ」
「いいえいいえ。ティルトは此処に居るではないですか。動けないのならば、私が動きます。だから、だから」
 エイシュはまくし立てるように言い、は、と何かに気付いたように息を呑む。
「枯れぬ花」
「花?」
「そうです、枯れぬ花。常識を覆す存在。あれが存在するのなら、あなたが居なくなるのも、覆される可能性がある」
「ふふ、懐かしいね」
「そうでしょう、ティルト。あなたが教えてくれた、枯れぬ花です。自然の理を、常識を、覆すんです」
「だけどね、エイシュ。花は、枯れるものだ。永遠なんて、ないからこそ美しいんだよ」
「あると……あると言ったではないですか」
 エイシュが、震えながらティルトに訴える。ティルトは静かに微笑み、頷く。
「ああ、あるよ」
「それなのに、否定するのですか」
「いつしか、言っただろう? 矛盾していないんだよ。私の中で、矛盾などしていないんだ」
「宿題、ですか」
「そうだよ。宿題は、終わったかい?」
 ティルトの問いに、エイシュは首を振る。ティルトは静かに頷き、手を伸ばしてエイシュの手を握る。
 正しくは、触れる。握るだけの力が、ない。
「ならば、それを探すがいい。お前にも、いつしか答えが出るかもしれないからね」
 エイシュはそっと、ティルトの手を握る。そうして、笑う。
「分かりました、ティルト。ならば、私は探します。あなたに存在を見せるため、覆すため、探します」
「何を」
「花です。枯れぬ花を」
 は、と今度はティルトが息を呑む。
「待っていてください。私は、この手に枯れぬ花を持って、帰ってきます。その時、常識も、自然の理も、全て覆るはずですから」
「それは、違う。違うんだよ、エイシュ」
「いいえ。それが、私の答えです。この世のどこかに、必ず存在するのです。無限に咲く花が」
 エイシュはマフラーを首に巻く。人形とばれぬよう、首にある継ぎ目を人に見せぬよう、街に行く時には必ず巻いているものだ。
「では、行ってきます、ティルト。枯れぬ花を手にして、必ず帰ってきます」
「違う、エイシュ。その答えは、その答えは。ああ」
「行ってきます」
 にこやかに、エイシュは笑う。ティルトは諦めたように息を吐き、静かに微笑んで頷く。
 エイシュは満足したように頷き返し、行ってしまった。
「……まあ、いい」
 ティルトは身体をベッドに預ける。
 思考すら、徐々にあやふやになってくる。緩やかに、そう、緩やかに自分はこの世から居なくなるだろう。
「エイシュはエイシュで、永遠を見つけたのかもしれない」
 エイシュは、枯れぬ花を追い求めるだろう。何処にあるかも知らないし、本当に存在する事すら知らぬ。
 しかし、追い求める。己の身体が、動かなくなるその時まで。
「アステラ……こういう事、だったのか」
 永久などない。
 半永久ならば、ある。
 物理的に生み出すことが出来るのは、半永久だ。パーツの交換は、交換できる人がいるからこそ。つまり、交換できなければそれで永久は途絶える。
 限りが無い、というのは、なんと難しいことなのだろうか。
「だが、永く遠く、は存在する」
 いつまでも探すエイシュ。彼が探し続ける間、彼の中でティルトは生きている。
 いつまでも待つティルト。待ち続ける限り、たとえ心身がこの世から居なくなったとしても、エイシュは生きている。
 永く、遠く。
 枯れぬ花のように、咲き続けているのだ。
「いつしか、帰ってきたら、その時は、私達は、永遠に」
 ティルトは呟くように言い、眼を閉じた。
 深く、深く。
 闇の中に、潜るように。

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あと少しで、終わります。
もう少しだけ、お付き合いくださると嬉しいです。

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人形と花と魔術師(4)

 この世のどこかに。
 海の中にぽつんとある、小さな島かもしれない。
 はたまた、砂漠の中にあるオアシスかもしれない。
 しかし、存在していると言われている花がある。
「それが、枯れぬ花」
「枯れぬ花、とはどういうことですか? 花は、枯れるものだと伺いました」
「そう、そのように教えた。しかし、この世の中には常識すら覆す事象が存在する事がある」
「それが、枯れぬ花だと?」
「そういうことになるね」
 エイシュは考え込む。
 自分なりに答えを出そうとするものの、納得が行ってない様だ。
 ティルトは思わずくつくつと笑う。
 常識を覆す事象を一つも知らぬのだから、分からなくとも仕方ない。
「……エイシュ、どうして小鳥を見つけることが出来た?」
 え、と虚をつかれたようにエイシュは顔を上げる。
「いつも行く、水汲み場の近くに落ちていたからです」
「そこに、いつも小鳥はきていたかい?」
「いいえ。パンくずをもらいにそこの窓にくるのが殆どで、水汲み場では見たことがありません」
「小鳥は、お前に己の亡骸を見つけて欲しかったのではないか? いつもお前が水汲み場に行くことを知っていて」
「小鳥に、私の行動を理解していたと?」
「常識で考えれば、小鳥がお前に会おうと思えば、その窓にくるだろう。パンくず目当てだからね。しかし、小鳥は水汲み場にいた」
 エイシュは再び考え込む。
「……それが、常識を覆す、と言うことですか?」
「小難しく考えれば、そうだろうね。小鳥は、我々が想像する以上に賢い生き物であるからね」
「なるほど、つまり、小鳥は常識を覆す行動をした。それは常識が覆るという事実をも証明したため、枯れぬ花も存在するかもしれない、というのですね」
「お前は、小難しく考えるな」
 くつくつと、ティルトは笑った。
 その通りではあるのだが、何故か堅苦しい。
「永久というものは、存在しないのかも知れぬ。だが、存在するのかも知れぬ。難しいね」
「ティルト、それは矛盾しています。先程、存在しているのかもしれないと」
「私の中では矛盾していないんだ」
「まさか」
「そうだね、不思議だろう? 宿題だ、エイシュ。この矛盾、矛盾ではないと考えてごらん。理由を、見つけてごらん」
「存在するのですか?」
「もちろん」
 エイシュは、唸るように考えている。ティルトは優しく微笑み、エイシュの頭を撫でる。
 手が震えている。
 最後は、案外近いのかもしれなかった。

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ううむ、久々すぎて申し訳ない。
あとちょっと、なんですが。あとちょっとです。

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人形と花と魔術師(3)

3.
 エイシュの知識は、目を見張るものがあった。
 日常生活から、会話の受け答え、人の心の動き。
 どれもあっという間に習得していき、人と殆ど変わらぬ存在へとなっていた。
 ティルトにやることは、日々減っていく。たまにある「人とは違う判断」を、優しく正してやるくらいだ。
「マスター、鳥を見つけました」
 そう言って、小鳥を両手に乗せてエイシュはやって来た。
 掌の小鳥は、動かない。桜色の、綺麗な小鳥。
「もう、死んでしまったんだよ」
「死んで?」
 小首をかしげた後、エイシュは小鳥を見つめる。
「動かないんですか?」
「もう動かないよ」
「飛ばないんですか?」
「飛べないね。もう、死んでしまったから」
 エイシュは不思議そうに、動かぬ小鳥を見つめる。
「マスター、死ぬ、とは何ですか?」
「冷たいだろう? その小鳥」
「はい」
「でも、確かに生きて動いていたんだ」
「そのようです。以前、パンくずを分け与えてやったことがあります」
「死ぬとは、今お前の掌に居る、小鳥の状態の事だよ」
 ティルトは、座っていた椅子から立ち上がる。よいしょ、と声を出しながら。
 ここ数年、体が言う事をききにくい。
「墓を作ってやろう」
「墓、ですか。稀にマスターが花を持って訪れる、山頂にある石ですね」
「そう。あそこには、私の師匠が眠っている」
「いつ起きるのですか?」
「もう起きない。永遠の眠りについたから」
「しかし、眠るという事はいつしか起きるという事ではないでしょうか」
 なるほど、とティルトは頷く。
 エイシュはなかなか、面白い考え方をする。
「ならば、こうして思い起こす事が相当するんだろうね。眠るアステラのことを思い出し、話す。そのたび、アステラは起きるんだ」
 ティルトは言いながら、外に出る。
 エイシュは相変わらず、不思議そうな顔をしている。納得できていないようだ。
 小鳥の墓は、家の近くに作ってやった。エイシュに懐いていたのだし、死というものを身近に感じさせたいと思ったからだ。
 墓があれば、エイシュも小鳥を思うだろう。
 弔ってやってから、ティルトは手を合わせる。いつも、アステラにするように。
 その隣で、エイシュはじっとその作業を見ていた。じいっと。
「……マスター、やはり分かりません。永遠の眠りとは、何ですか? 死とは、何ですか?」
「そうだな」
 ティルトは、よいしょ、と立ち上がる。
「それに答えはない。いや、私なりの答えはあるといえば、ある。しかし、お前の答えではない」
「意味が分かりません。答えがあるならば、教えてください」
「お前は私の答えを聞いても、納得できないだろう。お前なりの答えを見つけなければ、意味がない」
「ですが」
 尚も不満そうなエイシュの胸を、とん、とティルトは小突く。
「焦るな。そのうち、すとん、と心に考えが落ちる。腑に落ちる、ともいうね」
「私に、臓腑はありません」
「しかし、心はある」
「ある、のでしょうか」
「あるさ。その証拠に、私の言うことが絶対に納得できないと、顔に書いてある」
 エイシュは「え」といい、顔をこする。ティルトはくつくつと笑い、エイシュの髪を撫でる。
「顔に書いてあるのは、心の声だ。見える時と見えない時がある。今はもう、見えないよ」
「分かりません、マスター」
 不思議そうに小首を傾げた。
 びゅう、と風が吹く。少し肌寒い。
「中に入って、夕食にしよう。その後は、いつものように夜話でも」
「はい、マスター」
「それから、もう私を『マスター』と呼ばず、名前で呼んでくれないか?」
「名前、ですか」
「そう。私が、私であると実感できるように」
 エイシュはしばらく考えた後、はい、ティルト、と返した。
 それをティルトは満足そうに頷き返し、家の中へと入った。
(あの小鳥は、いつか来る私の姿だ)
 ティルトは実感する。
 動きにくい体、億劫になる気持ち、心の成長が見られるエイシュ。
 どれもが、ティルトの心を自然とアステラのほうへ向けるのに、動いていた。
「今日の夜話は、あれにするか」
 いつか聞いた、枯れぬ花の話を。
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ちゃんと続きをかけました。ほっ。
間が空いてすいません。生きてます。
しっかり最後までいけるようにがんばりマッスル!

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人形と花と魔術師(2)

2.
 アステラのいなくなった家は、静かだ。取り残された魔術書や小物が、取り残されてしまっているようにも見える。
「そうだ、魔術」
 ティルトは呟き、魔術書に手を伸ばす。
 嘗てアステラが宮仕えをしていた頃、自分は半永久の魔術師と呼ばれていた、と言っていたのを思い出したのだ。
「半永久の魔術を作り上げるのが上手いのだと、自慢していたっけ」
 少し照れたようなアステラを思い出す。
 口元をほころばせ、どこか誇らしそうにしていたアステラ。
 ティルトはいくつかの魔術書をぱらぱらと捲りながら、思い返す。
(でも、アステラは永久を得られなかった)
 どうして半永久なのかと、アステラに尋ねた。
 どうせなら、永久の方が良いではないか、と。
 しかし、アステラは静かに微笑んで答えるのだ。
――永久など、何処にも無いのだ。
(ある筈だ)
 探せば、見つかる筈だとティルトは確信している。
 もしなければ、自ら魔術を構成すればよいだけのこと。
 永久となるものが、必ず存在する筈だ。
「そうでなければ、寂しい」
 ぽつりと呟く。
 既にアステラは居ない。半永久だったから。永久じゃなかったから。
 じわ、と溢れようとする涙を袖で拭う。
「……あ」
 ティルトは、とある一ページで指を止める。
 そこに書かれていたのは、人形に魂を宿す、というものだ。
 精神集合体を小さな人形に宿し、使い魔として使役するのだという。
「人が死ぬのは、肉体が朽ちるからだ」
 ぎゅ、とティルトは魔術書を握る。
「人形ならば、朽ちない。朽ちた部分を交換すればいい。そして、それを応用すれば」
 ティルトは唇を結び、魔術書を片手に術式を構成し始めた。
 思い描くのは、魔術書にあるような、小さな人形にそこら辺の精神集合体を宿す、という作業ではない。
 朽ちぬ体を持つ、人に近しいもの。
「できる、必ずできる」
 ティルトはその日から、魔術構成に夢中になった。
 最低限の日常生活をこなし、あとはひたすらに術式を構成してゆく。
 己の体の生理現象ですら鬱陶しく、眠らなければ動かぬ頭がもどかしくなるほどに。

 人形が完成したのは、アステラの死から15年が経過してからであった。
 術式を組み込み、人の形を成した人形。
 目を閉じて結界内に座っているその姿は、一見して人形とは分からぬ。
「……起きて」
 問いかけると、静かに人形は目を開いた。じっとティルトを見つめた後、ゆっくりと立ち上がった。
「おはようございます」
「おはよう。気分はどう?」
「大変よろしいです、マスター」
 滑らかに喋る口調に、ティルトは微笑む。
「名前を与え開ければ。何がいいかな?」
「名前はマスターがお決めください」
「じゃあ、エイシュ」
 エイシュ、と名づけられた人形は、頷いた。
「了解しました。以後、私はエイシュです」
「感想は?」
「私がエイシュである、という認識です」
 ティルトは怪訝な顔で、エイシュを見つめる。
 よく見れば、エイシュに表情は無い。無表情のまま見つめる顔は、目を閉じていた人形そのものである。
(感情が、欠落しているのか)
 少しだけ、がっかりする。
 仕方の無いことだとは、思っている。どれだけ魔術書を漁ろうとも、自らの術式を構成しようとも、精神の動きまでは組み込むことができなかった。
 一から作り上げたのだから。
(でも、これからだ)
 ティルトは心に決める。
 エイシュは見た目こそ違うが、生まれたてである。いわば、何も知らぬ赤子と同じ。
「私が、お前を育てればいいだけだ」
 ティルトはそういい、エイシュの頭を撫でる。
 かつて、アステラに言われ、されたように。

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第二話です。
ちゃんと続きがかけました。わーい。
あとは最後までいけたらいいな。がんばります。
出さなければならない人物は出しているので、あとはマスターと人形がキャッキャウフフするだけです(笑)

ぼちぼちやりますので、よろしくお願いします。

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人形と花と魔術師(1)

1.
 暖かな布団の中、うとうととティルトは目をこする。
「もう、眠るがいい」
 魔術師アステラは、ゆるりとティルトに声をかける。
 ゆらゆらとアステラの近くで揺れているランタンの火が、目を閉じても追いかけてくるかのようだ。
「眠いけど、眠くない」
 矛盾している答えを返すと、アステラは苦笑交じりにベッドへと近づいた。
「話をご所望か」
 こっくりと頷くと、アステラは「よいしょ」と小さく呟きながら、傍においてある粗末な椅子に腰掛ける。
「ドラゴンの卵の話はしたかな?」
「暖めすぎてゆで卵になったやつなら、一昨日聞いた」
「では、突如踊りだす不可思議な人形の話は?」
「螺子を妖精が巻いていたのなら、一週間前に」
 ふむ、とアステラは頷く。
 なるほど、夜話を毎晩聞かせているせいで、大分同じ話をしてしまっているようだ。
「私の話を、君は殆ど聞いてしまっているようだね」
「聞いたことの無い、話がいい」
「これは手厳しい」
 くつくつと笑い、優しくアステラはティルトの頭を撫でる。
「では、永遠に咲くという、枯れぬ花の話をしよう」
 ティルトは微笑み、頷く。
 アステラは笑い返した後、静かに口を開くのだった。

――人は、死ぬのだろう。
 花に囲まれているアステラを見つめ、ティルトは思う。
 夜話を強請ったのは、いつまでだっただろうか。
 十年前は、確実に聞いていた。毎晩楽しみで、色んな話を聞いて、想像して、夢の中で続きを見たりしていた。
 いつからか、夜話を聞かなくても眠れるようになった。そしてまた、アステラも話さなくなった。
 口数が減り、ぼーっとする回数が増え、だんだん足元がおぼつかなくなった。
 ティルトがアステラの背を追い抜いてしまったところで、アステラは突如として倒れ、帰らぬ人となってしまった。
「アステラ」
 ぽつりと問いかけるも、アステラからの返事は無い。
 昨日までは、ゆっくりとではあったものの「なんだい?」と返事があったというのに。
 アステラは返事をしない。
 アステラは動かない。
 アステラは、もう、アステラではない。
「……これが、死」
 ティルトは花の中に埋もれている、かつてアステラだった体を見つめ、それから蓋を閉めた。
 家の裏山に箱を担ぎ、山頂に埋めた。
 慰問客などいない。森深くに住んでいた二人は、日々魔術を鍛錬し、あるものを口にし、稀に街に出て過ごしていたのだ。
 殆ど、他者と交わることなく。
 本来ならば、アステラはティルトと共に生活することすらなかったのだ。
 幼いころ、ティルトがこの森に捨てられることさえなければ。
「一人、朽ちることはなかったんだ」
 ティルトがいるからこそ、アステラの亡骸はこうして弔うことができたのだ。寂しく、骨になることもなく。
「自分の存在が、アステラにとっては、きっと、救いだった、に、ちが」
 ティルトは嗚咽をあげる。
 言葉にならぬ言葉を吐き出し、叫び、涙を流す。
「人は、人は何故死ぬ!」
 うおおおおお、とティルトは吼えた。
 アステラからの返事は、無かった。

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「枯れぬ花」「有限の魔術師」の派生ノベルです。
性別については、適当に妄想してください。
どっちでもいいように書くつもりです。

ふと思いついたので、まとめる意味でも書いてみます。
ちゃんと最後までいけるよう、がんばります。
ブログ更新自体が遅いし、何かこういうのを作ったら更新するような気がしますしね。
うん、自分、だめなやつ(笑顔)

ちょっといろは様にハァハァしてくる。

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